アートとテクノロジーの力で、「廃材活用」の市場を創造する:WALLTECH—— TMIPスタートアップ支援プログラム 「Tokyo GreenTech Challenge」シリーズ vol.3

TMIP事務局浅見コメント

TMIP事務局浅見コメント

地域の記憶や魅力をアートとして残し、廃材を資源へと変えるWALLTECH社の試みは、環境保全と文化の融合を示す先進事例です。都市開発や地域活性を志向する企業の皆様との共創を、TMIPとしても支援してまいります。

2024年10TMIPは、株式会社野村総合研究所、グリーンタレントハブ株式会社、トークンエクスプレス株式会社と共同で東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」で10者のみが選ばれる重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択され、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge(以下、TGC)」を始動させました。

スタートアップの成長加速を、350団体以上が参画するTMIPコミュニティを活用して実現することを目指し、TGC採択事業には7社の事業領域が異なるスタートアップが選定されました。2025年7月から注力領域やプロジェクトを発信するTMIP会員限定のイベント「TMIPランチコミュニティ」に登壇された様子を全7シリーズでお届けします。

INDEX

アートとテクノロジーの力で、新たな市場を創造する

8月8日のランチ会に登壇したのは、株式会社WALLTECH代表取締役の長谷場咲可氏です。

同社は202311月に設立された沖縄発のスタートアップで、様々な業界から出るまだ使える廃棄物を資源として活用して、単なるアップサイクルではなく、人々の心を動かす製品やサービスを提供することを目指し、「アート壁事業」や「繊維パネル事業」を展開。いずれも廃材を活用しながらアートとテクノロジーで新たな価値を創造し、新たなマーケットを生み出すことを目的にしています。

長谷場氏は事業上のこだわりを「アートの力を活用すること」とし、その理由を次のように説明しました。

長谷場氏「廃材の活用はコストがかかるという課題があります。その課題を乗り越え、たくさんの方々に私たちのプロダクトを利用していただくには、『環境にいい』以上の付加価値が必要です。私たちはアートの力を活用して、見る人に『かっこいい』『かわいい』と言っていただけるプロダクトを生み出し、廃材活用を推し進めたいと考えています。

私たちは、『廃材を使っているからこれを買おう』と意思決定する人を増やすのではなく、デザインなどを気に入り、購入を決めたプロダクトが『実は廃材からつくられていた』と気付く、そんな人を増やしたいんです。そうすれば、自ずと廃材活用は進んでいくのではないかと。そういった意味で、アートには世界を変える力があると信じています」

株式会社WALLTECH代表取締役 長谷場咲可氏

現在、特に注力しているのが「アート壁事業」です。この事業は解体される建物の特徴的なパーツをベースに立体作品を生み出し、その作品を新たな建物の壁に埋め込んだり、地域の歴史をモチーフにしたアートを制作したりすることで、建物や土地の記憶をアートとして保存するもの。

この事業には多くの職人の力が必要不可欠ですが、高い技術を持った職人は減少しており、このことが事業拡大を進める上の課題となっていたといいます。この課題を解決するために開発したのが、WALLTECH独自の「3Dプリンタを活用した型造形手法」です。

長谷場氏「造形モルタルの世界はいまだにアナログな部分も多く、アート壁の制作には職人技が求められるだけではなく、大きな手間がかかってしまいます。そこで、人の手で行っていた土台型づくりを、3Dプリンタで代替する技術を生み出しました。

制作する土台型をメッシュ状にすることで、接着剤を使わずにセメントや漆喰にくっつけることが可能に。さらに、内部を空洞にすることで大幅な軽量化も実現しました。この技術は職人さんの作業を大幅に短縮し、職人さんたちが多くの現場で活躍できる可能性を広げます」

また、同社はアーティストとモデラー、そして職人をつなぐオンラインプラットフォームの構築も進めています。「アーティストが描いた作品のデータをサイト上にアップロードし、モデラーがそのデータを元に3Dデータを作成。それを施工現場の近くで3Dプリンタをつかって出力し、職人さんが仕上げる、プラットフォームを通して作り手それぞれにしっかりと利益を還元できる流れをつくりたい」と、長谷場氏は構想を明かしました。

実証実験を通して、アート壁の新たな価値を模索する

現在、WALLTECHは「Tokyo GreenTech Challenge」において、工事現場の仮囲いをアートギャラリーにする実証実験を進めており、地域キャラクターをモチーフにしたアート壁を制作しています。このプロジェクトの一環として、学生向けのアートコンテストを開催。このコンテストで入賞した作品はアーティスト監修の元、実際に立体化され、東京・沖縄・甲府で展示される予定だといいます。

また、長谷場氏は「アート壁を地域活性にも生かしたい」とし、すでに山梨県甲府市との共同プロジェクトが進んでいることを明かしました。

長谷場氏「甲府市はジュエリーづくりが非常に盛んな町なのですが、全国的な『ジュエリーの街』としての認知度はまだ低いのが現状です。甲府市役場の方々は、認知度を高め『甲府といえば、ジュエリー』というイメージを定着させたいという考えを持っています。

そこで、現在進めている共同プロジェクトでは、『ジュエリーの街・甲府』を象徴するようなアート壁を制作し、それを東京で展示することを通して、甲府の魅力を発信していきたいです。

そして、この実証実験という機会をフルに活用し、さまざまな企業のみなさんに立体アート壁がどのようなものなのかを知っていただき、反響を聞きながらどんどん成長させていきたいと考えています」

長谷場氏のプレゼンテーションの後に実施された質疑応答では、アート壁を制作するための材料の仕入れに関する質問が飛び、長谷場氏は「日頃から取引をしている仕入れ先はあるものの、クライアントからの要望やアート壁を制作する場所などに応じて、臨機応変に対応したい」と回答。

質疑応答のあとには、ネットワーキングタイムが設けられ、参加者が長谷場氏にアート壁事業の詳細や、マーケティングへの活用方法などについて尋ねる様子が見受けられました。

 TMIPスタートアップ支援プログラム「Tokyo GreenTech Challenge」について

TMIPは東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択されています。本事業の協定事業者に採択されたことに伴い、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge」を始動し、事業支援するスタートアップ7社を選定いたしました。

本プログラムを通じて、スタートアップが最短距離で社会課題解決のインパクトを実現できるよう、 350団体を超えるTMIPコミュニティを活用し、「大企業・自治体等のプレイヤー集め」、「協調領域の抽出」、「実証費用・フィールド提供」など伴走支援いたします。

▶TOKYO SUTEAM採択リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/5709
▶「Tokyo GreenTech Challenge」採択事業7社決定リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/11420

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