TMIP事務局浅見コメント
気候変動により不安定化する農業の現場において、WAKU社の技術は生産性と持続可能性を両立させる革新的な取組みです。再現性の高いバイオスティミュラントとして、農業・食品・環境など多様な領域でのパートナーとの連携を心よりお待ちしています。
2024年10月TMIPは、株式会社野村総合研究所、グリーンタレントハブ株式会社、トークンエクスプレス株式会社と共同で東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」で10者のみが選ばれる重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択され、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge(以下、TGC)」を始動させました。
スタートアップの成長加速を、350団体以上が参画するTMIPコミュニティを活用して実現することを目指し、TGC採択事業には7社の事業領域が異なるスタートアップが選定されました。2025年7月から注力領域やプロジェクトを発信するTMIP会員限定のイベント「TMIPランチコミュニティ」に登壇された様子を全7シリーズでお届けします。
10月10日に開催されたTMIPランチ会に登壇したのは、株式会社WAKU 取締役 COOの片野田大輝氏です。WAKUが開発するグルタチオン(グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸からなる化合物)を活用した「バイオスティミュラント」の概要と、同社が目指す農業の未来が語られました。
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グルタチオンが、酷暑にあえぐ農家と農産物を救う
WAKUは「グルタチオンで、人類の食を守る。」をミッションに掲げ、岡山県岡山市に本社を構えるディープテックスタートアップです。同社は、グルタチオンという物質を活用したバイオスティミュラント(生物刺激剤。植物や土壌によりよい生理状態をもたらす物質や微生物の総称)の開発を通して、気候変動に強い農業の実現をサポートしています。
片野田氏はまず、「近年の記録的な猛暑は、農業現場に深刻な影響を与えています」と切り出し、ネギの生産法人から聞いた切実な声を紹介しました。
片野田氏「『暑すぎてネギが全然太らず、収穫の目処が立たない』『出荷予定がどんどん崩れていって、どうしたらいいか途方に暮れている』という声を聞きます。こういった問題に直面しているのはネギ農家さんだけではありません。さまざまな作物が、気候変動による影響を受けています。
実際に、米が5キロ4000円台に高騰し、キャベツが1玉1000円になるなど、気候変動が収穫量の減少を招き、結果として価格高騰を招いている。海外でも大雨による収穫不能が頻発するなど、国内外を問わず、気候変動に起因する問題は深刻化の一途を辿っています」
こういった問題を解決するために、同社が目を付けたのがグルタチオンでした。グルタチオンは3つのアミノ酸が繋がったトリペプチド(3種のアミノ酸がペプチド結合したもの)で、医薬品や二日酔い予防サプリ、美白パックなどに使われる、私たちにとっても馴染みのある物質です。
片野田氏は「このグルタチオンを植物に与えることで、光合成を促進したり、ストレス耐性を向上させたりと、さまざまな効果が得られることがわかってきました」とし、その詳しいメカニズムをこう説明しました。
片野田氏「植物の体内には元々、還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)含まれています。植物が暑さなどによってストレスを受けると活性酸素が発生し、GSHがこれを打ち消す役割を果たします。
その反応の過程でGSHはGSSGに変化し、植物はGSSGの濃度上昇をストレスのシグナルとして認識します。すると、植物はストレスを緩和するために、GSHの濃度を上げるべく、細胞分裂を活発化させます。植物は、こうしてストレスに対処しながら生長しているわけですね。
私たちが目を付けたのはこのメカニズムです。肥料やバイオスティミュラントを通して外部からGSSGを供給することで、植物に『ストレスを感じている』と錯覚させ、GSHの増加、ひいては細胞分裂を促し、植物の生長をサポートするのです」
「生長の再現性」が担保される
現時点では一般発売はしておらず実証実験を進めている段階ですが、すでに大きな成果を得ているといいます。
たとえば、岩手県のネギ生産法人の協力のもと実施した実証実験では、猛暑の影響で生育が悪化していたネギに対してWAKUの資材を使用したところ、可食部が増加しただけでなく、収穫時期を1か月前倒しすることに成功しました。
片野田氏「この実証実験では、私たちの肥料を使用したことで生長が促進され、ネギの平均単価の高い9月に収穫することができました。
さらに、9月から10月にかけて予定していた2回の農薬散布も削減でき、コストを抑制することにもつながっています。私たちの製品が農家のみなさんに、大きな経済的メリットを提供できると確認できたことは、大きな成果だと感じています」
WAKUの資材は、市場に溢れる他のバイオスティミュラントとは一線を画しています。「現在の市場には『アミノ酸、ビタミン、ミネラル全部入り』『さまざまな発酵エキスを配合』と、複合的なアプローチを取る商品が溢れている」と片野田氏はいいます。しかし、複合的なアプローチであるがゆえに、どの成分がどのようなメカニズムで植物の生長を促進したのか、農家の方々が判断できず、再現性を担保できないことが課題です。
一方、WAKUの資材はグルタチオンという単一の有効成分に特化しているため、生長促進のメカニズムが明確であり、生産者の方々にとって「再現性のある資材」であることが強みになっています。
世界規模の「1兆円マーケット」の先駆者を目指して
バイオスティミュラントは「農薬のような効果」と「肥料のような安全性」を両立する「第三の農業資材」として注目を集めています。
片野田氏は、「現在、日本では法整備が進んでおらず、明確なバイオスティミュラントの定義は存在していませんが、欧州では法による厳格な定義が存在し、肥料や農薬と同じ位置づけで使用されている」とし、その将来性についてこう言及しました。
片野田氏「2032年には世界で1兆円を超える市場規模になると予測されており、日本でも大きなマーケットになると言われています。現在WAKUは、粒剤タイプと液体タイプの2種類の資材を開発し、販売に向けた登録手続きを進めているところです。
対象作物はネギやキャベツなどの野菜だけでなく、林業用の苗や緑化用の芝など、幅広い植物での試験を実施中。さらに、既存の栽培体系に組み込みやすい施用方法の開発も進めており、生産者に新たな手間をかけさせない工夫を重ねていきたいと思っています」
片野田氏はランチ会の参加者に向け、「私たちの資材を使ってみたい、という方がおられましたら、ぜひお声がけいただきたい」と呼びかけ、プレゼンテーションを締めくくりました。
TMIPスタートアップ支援プログラム「Tokyo GreenTech Challenge」について
TMIPは東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択されています。本事業の協定事業者に採択されたことに伴い、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge」を始動し、事業支援するスタートアップ7社を選定いたしました。
本プログラムを通じて、スタートアップが最短距離で社会課題解決のインパクトを実現できるよう、 350団体を超えるTMIPコミュニティを活用し、「大企業・自治体等のプレイヤー集め」、「協調領域の抽出」、「実証費用・フィールド提供」など伴走支援いたします。
▶TOKYO SUTEAM採択リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/5709
▶「Tokyo GreenTech Challenge」採択事業7社決定リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/11420




