熱エネルギーの活用で電力の安定供給に挑むESREE Energy—— TMIPスタートアップ支援プログラム 「Tokyo GreenTech Challenge」シリーズ vol.1

TMIP事務局浅見コメント

TMIP事務局浅見コメント

気候変動への対応やエネルギーの安定供給は、産業界全体にとって避けて通れないテーマです。ESREE Energy社の取り組みは、環境とビジネスの両立に向けた新たな可能性を示しています。熱エネルギーの活用に関心のある皆様、ぜひ実証や協業のご相談をお待ちしています。

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2024年10TMIPは、株式会社野村総合研究所、グリーンタレントハブ株式会社、トークンエクスプレス株式会社と共同で東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」で10者のみが選ばれる重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択され、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge(以下、TGC)」を始動させました。

スタートアップの成長加速を、350団体以上が参画するTMIPコミュニティを活用して実現することを目指し、TGC採択事業には7社の事業領域が異なるスタートアップが選定されました。2025年7月から注力領域やプロジェクトを発信するTMIP会員限定のイベント「TMIPランチコミュニティ」に登壇された様子を全7シリーズでお届けします。

INDEX

「電力の安定供給」という世界規模の課題解決を目指す

7月11日に登壇されたのは、TGC「エネルギーマネジメント領域」で採択されたESREE Energy株式会社の代表取締役 岩田貴文氏です。ESREE Energyが開発を進めるのは、Pumped Thermal Electricity Storage PTES)と呼ばれるヒートポンプ技術を使った蓄熱蓄電技術および、この技術を応用した装置です。これは、余剰電力によってヒートポンプを回し、熱と冷熱を生み出すと同時にそれらを蓄熱し、電力が必要になったときに蓄熱された熱と冷熱をエネルギー源に発電を実現するもの

PTESの概念図(画像引用:https://esree.co.jp/ptes/

同社がこの技術・装置の開発を進める背景にあるのは、世界規模の「エネルギー問題」です。現在、世界中で環境保全の観点から「脱炭素」が推進されており、化石燃料を燃焼させる火力発などの抑制が世界的なトレンドになっています。

その代替手段として太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用する発電に注目が集まっていますが、再生可能エネルギーの活用には「天候に左右される」という弱点があり、電力の供給時間や量が安定しないという課題を抱えています。

岩田氏「実際、2020年の12月から翌年1月には寒波によって電力の需要量が急激に上昇し、通常であれば1キロワット時あたり10~20円ほどの電力価格が200円を超え、多くの新電力会社が電力調達コストの負担に耐え切れず倒産などに追い込まれるという事態も生じました。今後、火力による発電量がより減少していけば、このような事態が頻発するようになると予想されています」

 ESREE Energy株式会社代表取締役・岩田貴文氏

再生可能エネルギー電力の安定供給はすべての産業にとって、そして人々の生活にとって、避けては通れない課題です。この大きな課題を解決するために岩田氏が目を付けたのが、「蓄熱」でした。

岩田氏PTESの利点は、LDES(長期エネルギー貯蔵システム)としても活用できる点にあります。LDESとは、長時間にわたって電力を供給できるエネルギー貯蔵技術のこと。電力需要が低いときにはヒートポンプの原理を用いて電気を熱の形に変えてエネルギーを溜めておき、電力が必要になったときに溜めておいた熱で発電することで、電力の調整弁を担うことが期待されている技術です。

LDESは、電気化学系かそれ以外かの2種類に大別されますが、電気化学系は効率的に蓄電できる反面、技術にもよりますが、大量のエネルギーを貯蔵しようとすると電池セルが大量に必要になるため高コストになったり、材料や部品の供給に地政学的なリスクがあったりするなどの課題があります。

一方、それ以外のLDESは熱エネルギーや位置エネルギー、圧力など原始的なエネルギーを用いるため、充放電効率はあまり高くありませんが、大量のエネルギーを貯蔵する用途であればコストダウンが見込め、特定の材料に依存しないことからエネルギー安全保障上も優位だと考えています。そこで、私たちは熱エネルギーを活用した蓄熱技術に着目し、中でも我が国の得意な技術であるヒートポンプ技術を活用するPTESの開発に乗り出すことにしました」

TMIPとの連携で、重要な要素技術の確立に挑む

現在、ESREE EnergyPTESを構成するさまざまな要素技術の開発を少しずつ進めているところですが、リソースの制約がある中で「特に力を入れているのは、蓄熱部分の技術の確立」と岩田氏。技術開発の現状をこう明かします。

岩田氏「PTESの実現を目指すにあたり、既存の技術で必ずしも賄いきれない要素技術のひとつは、300℃程度の熱を安価に効率良く蓄熱する技術です。2024年度には、ある固体蓄熱材を活用した蓄熱技術の開発を目指したものの、これはうまくいきませんでした。現在はTGCのプログラムを活用して、砂利を使った蓄熱技術の開発を行っております」

岩田氏からのプレゼンテーション後には質疑応答の時間が設けられました。会場から飛んだのは、「想定顧客」に関する質問です。「元々は電力会社が顧客だと考えていたが、それだけではないと気付いた」と岩田氏。その理由をこう続けます。

岩田氏「PTESをLDES用途だけに使用するのはもったいないと気づいたからです。貯蔵したエネルギーを使って発電すれば、その電力は当然売ることができるのですが、電力を高く売れるタイミングは電力が逼迫したときのみで、そういったタイミングは必ずしも多くありません。

そこで、PTESがヒートポンプの原理を用いて効率的に生み出す『熱』を、工場等に熱供給する機能もPTESに担わせたいと考えています。つまり、PTESを、産業用大型ヒートポンプ兼LDESとして活用する使い方を現在は想定しています。」

最後に、岩田氏より今後の展望についてこう語りました。

「LDESは、電力の100%脱炭素化の実現に必要な技術と言われています。しかし、電力の脱炭素化の進捗次第では、活躍のタイミングがなかなか来ないこととなってしまいます。来るべき電力100%脱炭素化時代に向けて、PTES開発を進めていきたいと考えておりますが、例えば、本日ご紹介した砂利蓄熱の技術など、我々の開発する要素技術について、それらの個別の実用化も行っていきたいと考えており、様々な角度から連携の形を模索させていただきたい」

ESREE Energyとの連携をご希望の方はTMIP事務局までお問い合わせください。

 TMIPスタートアップ支援プログラム「Tokyo GreenTech Challenge」について

TMIPは東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択されています。本事業の協定事業者に採択されたことに伴い、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge」を始動し、事業支援するスタートアップ7社を選定いたしました。

本プログラムを通じて、スタートアップが最短距離で社会課題解決のインパクトを実現できるよう、 350団体を超えるTMIPコミュニティを活用し、「大企業・自治体等のプレイヤー集め」、「協調領域の抽出」、「実証費用・フィールド提供」など伴走支援いたします。

▶TOKYO SUTEAM採択リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/5709
▶「Tokyo GreenTech Challenge」採択事業7社決定リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/11420

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