新規事業を創出する「共創の拠点」へ——8期目を迎えたTMIP「2026年度 年度報告会」を開催

丸の内エリアを舞台に、大企業の新規事業創出を支援するオープンイノベーションプラットフォーム「TMIPTokyo Marunouchi Innovation Platform)」。20265月、これまでの活動を振り返り、次なるフェーズへの指針を示す「2026年度TMIP年度報告会/方針説明会」が開催されました。

現在、参画団体数は400団体を超え、日本最大級の新規事業創発プラットフォームへと成長を遂げたTMIP。本レポートでは、豪華登壇者によるキーノートセッションから、2026年度の新方針、そして会員企業による熱気あふれる報告会まで、当日のハイライトを凝縮してお届けします。

大企業とスタートアップの共創を前に進める条件とは?

1部は、「新事業はいかに生まれるか――企業を超える事業創出の設計大企業とスタートアップの共創を前に進める条件とは」というテーマでキーノートセッションを実施。早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏をはじめ、新規事業家®の守屋実氏、株式会社スペースシフトの金本成生氏、三菱地所の榑林康治氏を迎え、大企業とスタートアップの共創における「潮目の変化」について議論が交わされました。

――本気の大企業が「やるやる詐欺」を脱し、潮目が変わった

セッション冒頭、入山氏は、AI革命や日本のIP(知的財産)の強さなどの要因で、「日本は今、完全に追い風の中にある」と話しました。この追い風を受け、大企業による新規事業創出の現場にも大きな変化が起きているといいます。

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授 入山章栄氏

守屋氏「かつての大企業を『やるやる詐欺(やると言いながら人事異動など様々な要因で頓挫しがち)』、スタートアップを『できるできる詐欺(勢いだけで実行できない)』と表現していましたが、今はその状況が改善されています。大企業が本気で『これをやる』という意思を持ち、具体的な発信を始めたことで、スタートアップも地に足をつけて考える。そうやって質の高いマッチングが生まれ始めているので、ようやく潮目が変わってきたと実感しています」

新規事業家®の守屋実氏

榑林氏も「同様の変化を感じている」と続け、三菱地所は「イノベーションのジレンマ」に悩みながら自社の新規事業創発に取り組んできた一方で、丸の内という場をイノベーションが自然発生するまちへと進化させるチャレンジについて、愚直に取り組んできた歴史があると語りました。

丸の内を「共創の拠点」にする、まちまるごとワークプレイス構想

続けて榑林氏は、丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)が持つ価値について触れました。三菱地所では、一企業が単独の取り組みでは実現しにくいことを、丸の内のまち全体でサポートし、多様な機能・施設を提供する「まちまるごとワークプレイス構想」を推進しています。

榑林氏「丸の内にはオフィスだけでなく、商業施設、イベントスペース、更には広場や道路等の屋外空間といった多様なアセットがあります。これらを活用し、実証実験やプロモーションをスピーディに行える環境を整えることができる。膨大な企業集積があることに加えてこうした環境があることで、共創を通じたビジネスを生み出せる可能性があると考えています」

三菱地所株式会社執行役員 榑林康治氏

この環境の重要性について、金本氏はスタートアップの視点から「私たちの特徴は、自分たちだけでサービスを完結させないことです。衛星データは、建設や不動産など各業界の専門知識と組み合わさることで初めて現場のニーズにマッチします。だからこそ大企業やスタートアップとの共創が不可欠です。この組み合わせで成功事例を次々と生み出し、日本が世界をリードしていきたいですね。また、大手町・丸の内という住所が持つ信用力は、日本社会において依然として非常に大きい」と指摘。また守屋氏は、「オンラインが発達しても、同じ場所に集まって熱量を共有することが大事。人の熱量こそが事業の源泉であり、それが伝播しやすい丸の内には良い生態系ができている」と強調しました。

株式会社スペースシフト代表取締役 金本成生氏

戦略的な新規事業の出口戦略としてM&Aは有効?

新規事業の出口戦略としてのM&Aにも話が及びました。榑林氏は、三菱地所がエレベーターメディア事業を展開するGRAND株式会社を、M&A事例として紹介。これに対し入山氏は、日本のスタートアップにおけるM&A比率の低さを改めて問題視しました。

入山氏M&Aは大企業にとって、最もシンプルなオープンイノベーションです。今後、東証の上場維持基準が厳格化される中、スタートアップの出口としてのM&Aはますます重要になります。大企業のトップがリテラシーを高め、自社の成長のためにM&Aを当たり前の選択肢として持つべきです」

守屋氏も「スタートアップ側も、M&Aを戦略的な選択肢としてポジティブに捉えるよう感覚が変わってきている」と述べ、この加速する熱量を当たり前にしていく必要性を説きました。

最後に守屋氏は、「一人で抱え込む『孤軍奮闘』は物事をこじらせる。TMIPのような場で互助連携し、創発することこそが事業を前に進める条件だ」と語り、キーノートセッションを締めくくりました。

2025年度活動報告&2026年度方針「共創プロジェクトの創出を加速」

続く第2部ではTMIP事務局の大淵から、昨年度の実績と今年度の方針が発表されました。

TMIP事務局 大淵鮎里

2025年度の活動報告

2025年度、TMIPが注力したプログラムは大きく3つです。

1つ目は、大企業発の新規事業を表彰する「TMIP Innovation Award」です。本アワードはこれまで3回開催され、累計73社、トータル109件の事業がエントリーするまでに成長しました。2025年度の最優秀賞には、株式会社ジェイアール東日本企画のファン応援広告サービス「Cheering AD」が選出されました。
「TMIP Innovation Award 2025」プレスリリース

2つ目の注力プログラムは、丸の内エリアのオフィスや商業施設、屋外空間を活用した「まちまるごと実証実験by TMIP」の本格化です。その代表例として事務局が挙げたのは、株式会社coordimateによる「次世代型デジタルミラー×AIスタイリング」の検証です。
「まちまるごと実証実験by TMIP」プレスリリース

大淵3ヶ月間の設置で累計1,066回の利用を記録し、実際のオフィス環境での事業性を確認することができました。リアルなまちだからこそできる検証環境を、今後も提供していきます」

そして3つ目が、東京都のスタートアップ支援事業「TOKYO SUTEAM」を通じた共創促進です。環境・エネルギー・気候変動分野を中心に7社のスタートアップ支援を行い、目標を大幅に上回るマッチングを実現しました。
「Tokyo GreenTech Challenge」プレスリリース

2026年度の注力プログラム

続く2026年度は、「共創プロジェクトの創出加速」をテーマに、「コミュニティ」「プログラム」「広報」の3軸をさらに強化します。

まずコミュニティ面では、ランチ会等のイベントに無料で参加できる「新ライトプラン」を導入し、会員間の交流をさらに活性化させます。また、会員同士がテーマごとにつながる「サークル活動」にも力を入れ、アクセシビリティやWeb3の他に株式会社RYODENの櫻澤氏を中心に新規事業開発のリアルな悩みを共有する新サークルも新たに始動します。

実践的なプログラム面では、外部パートナーとの連携を深化させます。デロイトトーマツベンチャーサポートと連携した「TMIP版出張モーニングピッチ」や、ReGACY Innovation Groupによる「実証実験の企画伴走支援」を新設し、アイデア創出から検証までをシームレスにサポートします。

左)株式会社RYODEN 櫻澤啓氏 中央)デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 川口翔吾氏 右)ReGACY Innovation Group 株式会社 中津川亮太氏

さらに「まちまるごと実証実験by TMIP」も進化させます。スタートアップである株式会社RECIKAと共にAIやトークン技術を活用した施策を推進するなど、複数企業が参画する共創型実証を強力に加速させていく方針です。

最後に、広報面では昨年のメディア露出数は115件と多くのメディア関係者にTMIPおよびTMIP会員の皆さまとの共創プロジェクトについて注目をいただきました。今年度も引き続き「まちまるごと実証実験by TMIP」や新プログラム等、皆さまとプロジェクトをつくり、「発信する」ところまでを一連でサポートします。

「まちまるごと実証実験by TMIP」の第1弾、服選びに困らない街へ。「coordimate」の挑戦

続いて、昨年度実施された「まちまるごと実証実験by TMIP」の好例となる共創事例が紹介されました。登壇したのは、株式会社coordimateの代表取締役CEO、飯野健太郎氏です。

NTTドコモからスピンアウト「株式会社coordimate」代表取締役CEO飯野健太郎氏

飯野氏は、NTTドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」からスピンアウトした第一号企業の1社として、「服選びに困らない街」の実現を目指すスタイリングサービスの検証について語りました。

――運命的な出会いから始まった「一蓮托生」の共創

このプロジェクトが大きく動き出したきっかけは、20247月に開催されたTMIPのイベントでの出会いだったといいます。

飯野氏「そこで出会ったAGC様と『ミラーを一緒にやっていきたい』とお話しさせていただき、現在はまさに一蓮托生でタッグを組んでビジネスを展開しています。TMIP Innovation Award 2024で賞をいただいた際も、まだミラー事業はこれからという段階でしたが、この出会いが大きなプレッシャーであり、推進力になりました」。

――丸の内ワーカーの「服選びの不安」をまち全体で解消する

実証実験は、三菱地所が運営するビジネス支援型シェアオフィス「EGG」「0Club」「Inspired.Lab」の3拠点に、1ヶ月ずつ次世代型デジタルミラーを設置して行われました。

丸の内で働く人々を対象に、ミラーでの服装診断とスマートフォンアプリを連携させ、蓄積されたデータに基づいてプロのスタイリストが個別のコーディネートを提案する「専属スタイリスト」体験を提供しました。

飯野氏「丸の内で働く方々は一見おしゃれで悩みなどなさそうに見えますが、調査では79%もの人が服選びに不安を感じているという結果が出ました。出社するたびにミラーを体験してもらうことでデータが溜まり、服選びがどんどん楽になっていく。究極的に『服選びに困らない街』を創れたら面白い、という想いでご一緒させていただきました」

シェアオフィスに設置されたデジタルミラー。商用環境での本格的な検証は今回が初となった

――目標を上回る利用と、想定外の受注獲得

3ヶ月間にわたる検証の結果、当初の目標であった1,000回を上回る1,066回の利用を記録しました。また、広告などのマーケティング活動を行っていないにもかかわらず、アプリの新規ダウンロード数は前年同期比で23%増を記録するなど、リアルなまちでの露出が強力なユーザー獲得に繋がったといいます。さらに、定量的な成果だけでなく、想定外のビジネスチャンスも生まれました。

飯野氏「ミラーの設置期間中、シェアオフィスに入居されている企業様から事業相談をいただき、実際に契約・受注に繋がる案件も生まれました。商用環境で初めて検証できたことで、プロダクトを5060箇所もチューニングすることができ、非常に大きな手応えを得られました」

実証実験を経て、同社のサービスは現在、他商業施設への本格導入へと急速に拡大しています。飯野氏は最後に、「TMIPという場のおかげで、事業を成長させることができました。これからも共に歩んでいきたい」と締めくくりました。

“社内政治を突破するための強力な武器。TMIP Innovation Award 2025最優秀賞受賞「CheeringAD」

年度報告会の締めくくりとして行われたのは、2025年度のTMIP Innovation Awardで最優秀賞を受賞した、株式会社ジェイアール東日本企画の河原千紘氏と、入山章栄教授による特別対談です。テーマは「熱量は、組織を越えられるか?〜大企業発イノベーションのリアル〜」。大企業の中で新規事業を形にするまでの葛藤と、外部評価がもたらす力について、熱い議論が交わされました。

株式会社ジェイアール東日本企画 未来事業推進局「Cheering AD」プロジェクトリーダー 河原千紘氏

――「趣味に付き合う暇はない」逆風からのスタート

河原氏が立ち上げた「Cheering AD」は、一般のファンが推しの誕生日や記念日を祝うために広告を出す「応援広告プラットフォーム」です。自身もK-POPファンである河原氏は、「なぜ日本にはこの文化がないのか」という純粋な疑問と、ファンとしての熱い想いからこの事業を構想しました。

しかし、社内での立ち上げ当初は厳しい逆風にさらされたといいます。2020年の社内コンテストでは落選し、周囲からは「なぜ代理店がToC(一般消費者向け)ビジネスをやるのか」「君の趣味に付き合っている暇はない」と冷ややかな言葉を浴びせられた過去を告白しました。

河原「当時は『推し活』という言葉も今ほど浸透しておらず、全く相手にされませんでした。それでも営業としての確信があったので、本業の傍ら、空いた時間を使って(笑)、小さく実績を積み上げていきました」

――TMIP Innovation Awardでの受賞が「社内の風向き」を変えた

そんな河原氏にとって、大きな転換点となったのがTMIP Innovation Award 2025での最優秀賞受賞でした。社内では「趣味」と一蹴されていた事業が、外部の専門家から「非常に筋が良い」と高く評価され、晴れの舞台で表彰されたことが、組織の空気を劇的に変えたといいます。

河原「受賞をきっかけに、社内の雰囲気がガラッと変わりました。それまで全く興味を示さなかった経営層からも、『あれはどうなっているんだ?』と応援の声がかかるようになったんです。外部でオーソライズ(公認)されることが、これほどまでに組織を動かす力になるのかと驚きました」

組織の壁について悩む参加者からも質問が投げかけられた

これを受け、モデレーターを務めた入山氏は、「大企業の経営層は、メディアに取り上げられたり外部で賞を取ったりすると、急に『俺は最初から応援していた』と言い出す傾向がある。TMIP Innovation Awardは、まさにそうした社内政治を突破するための強力な武器として使ってほしい」と、大企業における外部評価の戦略的な重要性を強調しました。

――信念を曲げずに、熱量を貫く

対談の最後、河原氏は会場に集まった新規事業担当者たちに向けて、力強いエールを送りました。

河原「大企業で新しいことをやろうとすると、心折れるようなことを言われる瞬間もたくさんあると思います。でも、その熱い信念を、何を言われても曲げずに貫き通してください。その熱量が、最終的には組織の壁を越えていくはずです」

事務局の大淵も、「河原さんのような実行力のある『スター』が生まれることで、後に続く人たちの道が拓かれる。今年度開催される『TMIP Innovation Award 2026』からも、また新たな挑戦者が現れることを期待しています」と締めくくりました。

年度報告会/方針説明会の後には、軽食とお酒を交えたネットワーキングの時間が設けられました。自社が手がけるプロダクトやサービスの情報を交換したり、知見を共有するシーンが、会場のあちこちで見受けられました。

2026年度TMIP Innovation Award、募集開始

TMIPは今年度も、さらなる挑戦を続けていきます。2026821日からは、第4回目となる「TMIP Innovation Award 2026」のエントリーがスタート。

「孤軍奮闘はこじらせる。TMIPのような場で互助連携し、創発することで物事は進む」――守屋氏がこう語った通り、TMIPは会員の皆様と共に、世界で最も熱量の高いイノベーションの拠点を築いてまいります。

詳細は[特設サイト]をご覧ください。

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