日本の交通をDXし、人と環境に優しい社会をつくる:RYDE—— TMIPスタートアップ支援プログラム 「Tokyo GreenTech Challenge」シリーズ vol.4

TMIP事務局浅見コメント

TMIP事務局浅見コメント

地域交通のDXを進めるRYDE社の挑戦は、利用促進を通じて環境負荷の軽減に貢献しています。教育的な側面も持つこの挑戦を、企業や自治体の皆様との共創によってさらに広げていければ幸いです。

2024年10TMIPは、株式会社野村総合研究所、グリーンタレントハブ株式会社、トークンエクスプレス株式会社と共同で東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」で10者のみが選ばれる重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択され、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge(以下、TGC)」を始動させました。

スタートアップの成長加速を、350団体以上が参画するTMIPコミュニティを活用して実現することを目指し、TGC採択事業には7社の事業領域が異なるスタートアップが選定されました。20257月から注力領域やプロジェクトを発信するTMIP会員限定のイベント「TMIPランチコミュニティ」に登壇された様子を全7シリーズでお届けします。

9月12日に開催したランチ会に登壇したのは、RYDE株式会社の代表取締役である杉﨑正哉さんです。地域交通のDXのみならず、「環境負荷の低減」と「教育」までを射程に収める同社の事業について語られました。

INDEX

開発力を武器に、日本の「移動」をDXする

2019年9月に設立されたRYDEは、「世のため、人の移動のため。」をビジョンに掲げ、コミュニティバスやシェアサイクルなど、二次交通や地域交通と呼ばれる交通機関のデジタル化を推進しています。

RYDEは2021年にスマートフォンアプリ『RYDE PASS』をリリース。このアプリは、さまざまな交通機関の乗車券や乗船券などをデジタル化するもので、これまで紙のチケットやICカードでの乗車が主流だった二次交通、地域交通のあり方を大きく変化させようとしています。このアプリの特徴を杉﨑氏はこう語ります。

実際の『RYDE PASS』の画面

杉﨑氏「『RYDE PASS』の特徴は、全国のさまざまな交通機関のチケットが1つのアプリで購入・利用できる点です。現在、39都道府県で160以上の事業者に導入していただいて、たとえば、シェアサイクル事業の大手である『ドコモ・バイクシェア』と『HELLO CYCLING』は、『RYDE PASS』があればどちらも利用可能です。具体的には、『RYDE PASS』の『シェアサイクル』のメニューをタップすると、両サービスのステーションが一度に表示され、そのときにいる場所と状況に応じていずれかのサービスを選択し、利用することができます。

着実に導入事業者数は拡大しており、来年の夏頃には200を前後になると予想しています。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)分野では後発組ですが、現段階では全国で最も利用されているサービスの一つになっています」

RYDE株式会社 代表取締役 杉﨑正哉氏

従来、交通機関の事業者が独自にデジタルチケットを発行するためのシステムを構築しようとすると、大きなコストが掛かっていたと杉﨑氏は言います。しかし、『RYDE PASS』は初期費用と固定費が無料で、『RYDE PASS』上のチケットの販売額に応じた利用料が事業者負担となり、手軽に導入できます。また、利用状況データやリアルタイムの売上実績も簡単に確認できる点も評価され、急成長を遂げています。

杉﨑氏「アプリの開発を始めた当初から、全国展開を見据えて中立性と拡張性を意識していたことがここまで展開を広げることができた要因の一つだと考えています。交通業界は地域ごとに使用しているシステムがばらばらだったり、事業者ごとに対象エリアがあったりするような状態だったので、全国どこでも使える統一的なサービスとして『RYDE PASS』を構想し、あらゆる事業者が使いやすいシステムを実現しました。

そういったニュートラルかつ柔軟なシステムを実現できたのは、RYDEが元々ソフトウェア会社を母体としていることに起因しています。交通系サービスとしての使いやすさは、本分野においてはトップクラスと認識しており、開発はすべて内製化しているので何か問題が生じればすぐに対応可能で、そういった点も、差別化要素になっていると考えています」

導入事業者数だけではなく、利用者数も右肩上がりで増加しており、杉﨑氏は「IDの数はもうすぐ20万を突破する」と説明しました。

購買データを起点に、利用者を増やすための施策を生み出す

すでに『RYDE PASS』は自治体や交通機関の事業者との取り組みのなかで、さまざまな実績を挙げています。

東京都港区内を走る「ちぃばす」にも導入されており、『RYDE PASS』導入以前はほとんどの利用者が紙の定期券を使用していたそうですが、『RYDE PASS』導入後、約7割がデジタル版の定期券に置き換わっているそうです。

杉﨑氏「よく『ご高齢の方はアプリを使わないのでは?』と言われるのですが、アプリを使うのと、定期券を買うためにわざわざ営業所に出向くのとでは、明らかに前者の方が楽なので、多くの高齢者がアプリを選択することを、港区の取り組みで再確認できました。

営業所に定期券を買いに来た高齢者のみなさまに、スタッフの方々がアプリの使い方を丁寧に説明し、『次からおうちにいても定期券が買えますよ』と伝えると、みなさん喜んでアプリを使ってくれると聞いています」

東京都との連携も進んでいます。その第一歩は、路面電車である東京さくらトラム(都電荒川線)での実証実験でした。東京さくらトラムは、以前から紙とICカードで1日券を発行していたそうですが、実証実験を開始する以前は、「どのようなお客様が、いつ、どのように1日券を利用しているか」を簡単に把握できていなかったといいます。また、その購入は、乗務員様に都度口頭で依頼する形式が主となっており、混雑時は特に、それがお客様や乗務員様の双方負担になっていたこともわかりました。

そこで『RYDE PASS』でデジタルの1日券を発行。データを分析したところ、1日券をご利用されるお客様の属性や利用タイミングが浮き彫りになり、利用者数増加に向けたさまざまな施策につながることになりました。また、お客様が購入の都度、乗務員様にそれを依頼するようなやり取りも不要になり、双方にとってよい結果となりました。

交通DXを「環境負荷の低減」と「環境教育」につなげる

現在、RYDEは「Tokyo GreenTech Challenge」において、環境教育と公共交通の利用促進を組み合わせた「エコのるプロジェクト」を展開しています。

杉﨑氏「学校や子どもたちが集まるイベントなどで、環境負荷が低いという公共交通機関のメリットを伝え、利用を呼びかけるチラシなどを配布する機会が全国各地で実施されています。RYDEとしても、このような取り組みに参加してきたのですが、その効果は把握できておらず『やりっぱなし』の状態でした。

Tokyo GreenTech Challenge』における実証実験では、チラシに家族で利用できる『RYDE PASS』の初回割引クーポンがもらえるQRコードを付けています。そうすることによって、そのチラシの効果を測定し、同時に『無料であれば、公共交通機関を利用する世帯』『無料であっても公共交通機関を利用しない世帯』『クーポンをきっかけに、公共交通機関を利用し続ける世帯』の割合を知ることもできます。

また、このクーポンを利用してくれた方には、連続的に異なる公共交通機関のクーポンを配布する仕組みになっています。継続的に公共交通機関の利用を促進することで環境負荷の低減と、子どもたちにその重要性を伝えることを実現したいです。将来的な目標としては、さまざまな自治体とこの仕組みを生かしたまちづくりにも取り組みたいと考えています」

最後に杉﨑氏は、『RYDE PASS』導入事業者の広がりを可視化した日本地図を示しながら、「こんなに広がったことに対して感慨深さを覚えつつも、まだまだ白地は多いので、ぜひさまざまな企業とのコラボレーションを通じて、より『RYDE PASS』を全国に広げていきたいと思っています」と、会場に詰めかけたTMIP会員に協働を呼びかけました。

RYDEとの連携をご希望の方はTMIP事務局までお問い合わせください。

TMIPスタートアップ支援プログラム「Tokyo GreenTech Challenge」について

TMIPは東京都が運営する「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の重点分野(環境・エネルギー・気候変動分野)の協定事業者として採択されています。本事業の協定事業者に採択されたことに伴い、TMIPスタートアップ支援プログラム「東京から環境・エネルギー領域の社会課題解決スタートアップを全国・世界へ。 Tokyo GreenTech Challenge」を始動し、事業支援するスタートアップ7社を選定いたしました。

本プログラムを通じて、スタートアップが最短距離で社会課題解決のインパクトを実現できるよう、 350団体を超えるTMIPコミュニティを活用し、「大企業・自治体等のプレイヤー集め」、「協調領域の抽出」、「実証費用・フィールド提供」など伴走支援いたします。

▶TOKYO SUTEAM採択リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/5709

▶「Tokyo GreenTech Challenge」採択事業7社決定リリース:https://www.tmip.jp/ja/report/11420

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